死んだ豚がソーセージに加工されなかったのは中国の進歩か?

 中国のこの異常事態をどう読めばいいのか。「宗教なき中国」にモラルを求めること自体が無粋なのか。まさに「おどろきの中国」がそこにある。

豚の死骸1万匹、誰が流した? 中国・上海 謎のまま (www.asahi.com 2013年03月18日21時01分)
 
 上海を流れる黄浦江の上流で見つかった1万匹近い豚の死骸。捨てた「犯人」がいると疑われている浙江省嘉興市では養豚農家が全面否定し、市当局も「すべてが嘉興からだとは特定できない」と反論する。一体どこから流れ着き、誰の仕業なのか。謎はますます深まる一方で、インターネット上はこのミステリーで持ちきりだ。
 
■「容疑者」は全面否定
 
 黄浦江でプカプカと浮いている豚の死骸が発見されたのは今月初め。18日も335匹が引き上げられた。11日間の合計は約9800匹にのぼる。
 
 嘉興市の養豚農家が「容疑者」として浮上したのは、一部の豚の耳についていた標識からだった。市内には黄浦江につながる川もある。複数の農家が死んだ豚を適正に処分せず、川に投棄した疑いが持たれた。過去、嘉興市で死んだ豚の川への投棄があったという証言を伝えたメディアもあった。
 
 18日、嘉興市の養豚農家が集中する地域に向かった。菜の花が咲くのどかな田園風景の中に、豚舎が並ぶ一角があった。あぜ道でたばこを吸っている男性に声をかけた。
 
 養豚業を営む任栄華さん(64)に、大量死した豚について単刀直入に聞いてみた。任さんは「この付近の農家が死骸を川に捨てるのは見たことがない」と答えた。
 
 では、誰が捨てたのか? 任さんは「それは知らない」と苦笑した。豚の伝染病の流行もないという。
 
 上海で見つかった死骸の一部からは、豚の伝染病のウイルスが検出された。病気で売り物にならなくなった豚が捨てられたのではないかとの見方が出ている。
 
 黄浦江は水道水の水源で、死骸が浮いていた流域には取水口がある。上海市当局が「ウイルスは人間にはうつらないタイプだ。水質に影響はない」と発表しても、市民の間に広がった不安は拭えていない。
 
 嘉興市の副市長は15日に会見し、嘉興市の養豚農家にかけられた疑惑を否定。今冬の寒波の影響で抵抗力の弱い子豚が大量に死んだ▽耳の標識は生まれて間もない時期のもので、ほかの地域に売られて飼育される豚もいる、などと説明した。そのうえで「上海水域の死んだ豚が、すべて嘉興からのものだとは特定できない」と主張した。病死した豚肉を販売する違法行為は確認されていないという。
 
 異常な事態を重く見た中国農業省は、調査チームを現地に派遣したが、重大な伝染病は発生していないとの調査結果を発表した。
 
■ネットでは大盛り上がり
 
 「北京では窓を開ければタダでたばこが吸える。上海では蛇口をひねれば豚のスープが飲める」
 
 中国版ツイッター・微博では、このところの深刻な大気汚染とからめた、笑うに笑えない自虐的な書き込みも目立つ。大量死の原因についても、「抗生物質が添加された飼料に不満で、川に飛び込み、集団自殺した」「養豚場の水が汚染されていて、川の水を飲みに行って落ちて死んだ」「鉄道省がなくなったことに、心を痛めて殉死した」などのジョークが書き込まれている。
 
 これまでも、病死した豚が市場で売られているのではないか、という疑惑はくすぶっていた。今回は川に流されたことから、「死んだ豚がソーセージに加工されて売られなかったのは、中国の進歩だ」といった皮肉を込めた声も多い。
 
 上海メディアは、嘉興の警察が昨年、病気で死んだ豚を食肉用に売却したとして12人を摘発するなど、取り締まりが厳しくなっていることを背景に挙げる。これまで死んだ豚が市場に出回り、市民の食卓に上っていた。しかし、引き取り手がなくなったので川に捨てたという構図だ。
 
 また、死んだ豚のなかでも体重25キロ以上に成長したものは犯罪集団がブローカーになって売りさばいていた、という指摘もある。
 
 豚の死因は何なのか。病死して売れなくなった豚が、川に捨てられたのか。大量の豚はどうやって運ばれたのか。謎のままだ。