ももクロの人気を予測する

ももクロ人気・マンガ売り上げ… 大量情報で未来予測 (www.asahi.com 2013年02月07日)
 
 ビッグデータと呼ばれる、インターネットや企業内の大量の情報を分析し、予測モデルを立てたり人工知能で計算したりして近未来を予測する研究が広がりつつある。アイドルグループの人気から失業率の動向まで応用は広い。
 
 アイドル「ももいろクローバーZ」の今後の人気は? 東京工業大の高安美佐子准教授の研究チームは「ももクロ」という言葉がブログに登場する頻度を調べた。ももクロ紅白歌合戦に出場した後の頻度を数理モデルを使って分析すると、人気は上昇傾向という結果が出た。
 
 研究のポイントは予測に使う数理モデルの精度。高安さんは、ツイッターやブログの書き込み中の特定の言葉がブームになるかどうかを判別するモデルの精度を高めた結果、インフルエンザの流行時の広がりを予測するモデルと似た。このモデル式は1月の米国物理学誌フィジカル・レビューに掲載された。
 
 高安さんや大学院生の田村光太郎さんらはまた、民間調査会社帝国データバンクが持つ企業間取引440万件のデータをもとに、同社が把握していない企業間のお金の流れを推測した。
 
 東日本大震災での経済損失を計算すると、津波で被災した企業の損失は1兆6300億円だが、影響は被災していない企業にも広がり、損失は計4兆6900億円と推計できた。このときの予測モデルは万有引力の式と似ていた。
 
 帝国データバンク産業分析課の課長補佐の北村慎也さんは「例えば、国の補助金の優先順位付けや効果の検証もできるだろう」とみる。
 
 国連などのチームは昨年、ソーシャルメディア上で交わされている言葉から失業増加の兆候が発見できる可能性が高いことを発見した。米国などの約50万のブログやインターネット掲示板などから抽出した2年分のデータから失業率に関係する言葉を抽出し、前向きな内容か、後ろ向きな内容かを分析した。その上でこうした言葉の頻度、使われ方と雇用統計を比較した。その結果、食料品の買い控え、公共交通機関の利用増加、安い自動車への買い替えなどに関係する言葉が増えると、失業率増加の前兆になると分かった。
 
 東京大学の松尾豊准教授は人工知能を使って、アジア各国での日本のマンガの売り上げを予測しようとしている。検索サイト「グーグル」でマンガの関連する言葉が検索された回数、ツイッターのつぶやかれた数、各マンガのネット百科事典「ウィキペディア」の編集回数などと関連が強いことが分かった。国はこれを、売れる商品を相手国に応じて絞り込む戦略作りに役立てるという。
 
 住宅や結婚式場の検索サイトでは、物件を探すうちに希望条件がどんどん変わることがある。松尾さんはリクルート経営共創基盤と共同で、検索で閲覧した物件の希望条件を数値化し住宅の「suumo」や結婚式場の「ゼクシィ」で、希望条件が変わり始めた兆候を早くつかもうと試みている。その結果を、いち早くおすすめ物件に反映させるプログラムも開発中だ。
 
 松尾さんは「ソーシャルメディアを観測すれば、消費者や国民のニーズをいち早くつかみ、企業や国が早く意思決定できるようになるのではないか」と話す。
 
 ただ、課題もある。分析に使う大量のデータは誰のものかという点だ。国立情報学研究所佐藤一郎教授は「ソーシャルメディア上のデータは書き込んだ利用者のものか、サービスを提供している事業者のものか、分析した研究者や企業のものかきちんと議論する時期にきている」と話している。