75歳の新人作家

芥川賞に75歳黒田さん 直木賞に朝井さん、安部さん (www.asahi.com 2013年1月16日21時26分)
 
 第148回芥川賞直木賞日本文学振興会主催)の選考会が16日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞には史上最年長となる75歳、黒田夏子さんの「abさんご」(早稲田文学5号)が、直木賞に戦後最年少となる23歳、朝井リョウさんの「何者」(新潮社)と安部龍太郎さん(57)の「等伯」(日本経済新聞出版社)が選ばれた。直木賞のこれまでの最年少受賞者は、1940年の堤千代さん(当時22歳)。副賞は各100万円。授賞式は2月中旬に東京都内で開かれる。
 
 黒田さんは1937年、東京都生まれ。早稲田大教育学部卒。1963年に「毬」で読売短編小説賞に入選。「abさんご」は昨年、早稲田文学新人賞を受賞したデビュー作。
 
 受賞作は、ある人物の半生記。小学校入学直前からはじまり、母親の死、戦禍を逃れての転居、家政婦が父と結婚し、家ものっとられる、といったことがらが、横書きでつづられる。蚊帳を「やわらかい檻」、折り紙を「ころあいに張りのある色無地でましかくな紙たば」と表現する独特の手法で、題名には「分かれ道」という意味がこめられている。
 
 堀江敏幸選考委員は「横書きの作品でひらがなが多く、文字自体の力強さとひらがなの暴力性と荒々しさが出て来た。よくも悪くも、手法は洗練されている。言い回しに面白さと違和感の両面を溶け込ませていて、全体としては美しい作品になっている。視覚的にも十分に考えられている」と高く評価した。
 
 75歳という年齢に質問が及ぶと「賞は作品に与えるもので、年齢に与えるものではない。(議論の中では)みずみずしい作品という言葉さえ出て来た」と話した。
 
 朝井さんは岐阜県生まれ。早稲田大在学中の2009年に「桐島、部活やめるってよ」で小説すばる新人賞を受けデビュー。昨春、大学を卒業し、一般企業に就職した。「もういちど生まれる」で前回の直木賞候補。2度目の候補で受賞を決めた。
 
 受賞作は、就職活動をしている男子大学生の視点からいまの「就活」を生々しく描いた長編。仲間で集まり、対策を練る学生たちは、ツイッターで格好良く自分のキャラクターを作り上げるが、就活を通してそれが壊されていく。「自分とは何者なのか」という問いを迫られる苦しさに向き合った。
 
 安部さんは1955年、福岡県生まれ、東京都大田区在住。福岡県久留米市の久留米高専を卒業後、東京都大田区役所の職員を経て、90年に「血の日本史」でデビュー。05年に「天馬、翔ける」で中山義秀文学賞を受賞。94年の「彷徨える帝」で直木賞候補になって以来、18年ぶり2度目の候補で受賞が決まった。代表作に「信長燃ゆ」。
 
 受賞作は、桃山時代の絵師、長谷川等伯が主人公。33歳で都の絵師になることを目指して郷里の能登を発つ。暗躍する狩野永徳との対立、妻や息子との死別など、次々と襲いかかる悲劇を乗り越えて、苦悩と向き合いながら「松林図屏風」を描き上げる姿を描いた。