禅とコーヒー

 自己啓発本に漂う「無神経なテイスト」は苦手だが、喫茶店という「空間」の魅力に惹かれ、齋藤孝『15分あれば喫茶店に入りなさい。』幻冬舎)を読む。
 
 サテンで仕事や資格試験対策に勤しむサラリーマン、というのは物悲しいが、メンタル・コンディショニングへの活用として、あるいは「禅」の実践の場として、作法を具体的に物語る手際の良さは著者ならでは。かつて小田島雄志が、東大正門前のルオー2階の奥まった小部屋で『シェイクスピア全集』翻訳に打ち込んだ話をはじめ、益川敏英博士と喫茶店、カフェ・ドゥ マゴや「ロイズ・コーヒー・ハウス」、伝説の名店「カフェ・ユィット」のエピソードなども楽しい。
 
 とはいえ、「喫茶店で仕事をする場合、コーヒーは薬と割り切る」と語るあたり、珈琲愛好家は素直に肯んじがたいところかも。ちなみに、著者にとって「いちばん効く」のはフレンチローストのマンデリンとのこと。