次のページに何が起きるか

村上春樹さん、ノルウェーで講演 執筆も「ワクワク」 (www.asahi.com 2010年8月24日11時57分)
 
 ノルウェーオスロ文化施設「文学の家」で23日夜、作家の村上春樹さんが講演した。「1Q84」の物語を思いついたきっかけの一つに米9・11同時多発テロがあったことや執筆の様子などについてジョークを交えて語り、立ち見の客ら800人が「村上ワールド」に酔いしれた。
 
 村上さんは英語であいさつした後、80年代初めに書いた短編「とんがり焼の盛衰」を自ら朗読。その後、ノルウェーの作家フローデ・グリッテンさんと対談した。
 
 主人公が、月が二つある現実がねじれた世界に紛れ込む物語「1Q84」の発想について聞かれ、9・11テロを引き合いに出し、「ビルが破壊される映像は完璧すぎてコンピューター・グラフィックスのようだった。この世界とは別のところに、違う世界があるにちがいないと感じた」と説明。「9・11が無ければ、米国の大統領は違う人になり、イラクも占領しない、今とは違う世界になっていただろう。誰もが持つ、そうした感覚を書きたかった」と話した。
 
 ノルウェーなど世界中で著書が翻訳されている人気ぶりについて「何が起きているのか私にも、分からない。書いている時の私は特別かも知れないが、普段の私はただの人。妻に聞いてください」と話すと会場は笑いに包まれた。
 
 執筆の様子について「長編でも短編でも作業は同じで、無計画。次に何が起きるか自分でも分からない。子どもの時、次のページに何が起きるかワクワクして読んだ興奮を、作家としても感じている」などと語った。
 
 ノルウェーでは「ノルウェイの森」のほか「海辺のカフカ」など多くの作品が翻訳されている。文学の家は20日から4日間、村上さんにスポットをあてたイベント「ムラカミ・フェスティバル」を開催。講演のチケットは約12分で完売したという。