証言と沈黙

火野葦平の従軍手帳など3万点、遺族が市に寄託 北九州 (www.asahi.com 2010年8月10日22時4分)
 
 「麦と兵隊」「花と龍」などで知られる作家火野葦平(1906〜60)が、日中戦争や太平洋戦争に従軍した際に記した手帳など、約3万点の遺品が10日、葦平が生涯を過ごした北九州市に遺族から寄託された。これまで民間団体が保管していたが、多くが未公開資料で、葦平研究が進むことが期待される。
 
 37年12月の南京事件直後の街の様子を伝える家族あての手紙には「城外には支那兵の屍骸が山をなしてゐます」と記している。葦平の三男の玉井史太郎さん(73)が葦平について語った対談で触れるなど、内容は知られていたが、手紙自体が表に出ることはほとんどなかったという。
 
 葦平は戦後の48年、戦争協力者として公職追放を受けた。その1年後に書いた異議申立書(特免申請)の下書きは、若い頃に左翼的な文化活動や労働組合に参加していたことを挙げて、戦時中の活動には軍国主義をリードする意図がなかったことを暗にアピールしている。
 
 市は資料を市立文学館に移して整理していく。将来的にデータベース化し、全国の図書館や研究者に発信していきたいという。同館の今川英子副館長は「葦平だけでなく、戦前から戦中、戦後にかけての日本文学研究につながるはずだ。戦争文学を書いた作家が戦後になって自己凝視をしたのかしなかったのかが、しっかり検証されなければならない」と話す。
 

土と兵隊・麦と兵隊 (新潮文庫)

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