「歪曲」の意味をめぐる10枚の看板

スターリン看板、侮辱か歴史の一幕か 「復権」巡り論争 (www.asahi.com 2010年3月7日13時55分)
 
 ロシアが5月9日に大々的に祝う対ナチス・ドイツ戦の65周年戦勝記念日を前に、ソ連の独裁者スターリンの「復権」をめぐって論争が起きている。モスクワ市が、肖像や実績を記した戦勝記念の看板(縦1メートル、横1.5メートル)を市内10カ所に配置すると発表したからだ。反対派からは「祝日に向けて、なぜ社会を分裂させるようなことをするのか」との声が上がっている。
 
 ナチス・ドイツを撃退した戦時の最高司令官である一方で、人民弾圧を重ねたスターリンの評価は、今も国民の意見が分かれる微妙な問題だ。
 ルシコフ市長は2日、「私はスターリン信奉者ではないが、客観的歴史観の賛同者だ」と述べ、スターリンの姿や歴史的役割を等身大で示す必要があると指摘した。一方で「それが過剰であってはならない」とも述べ、市内に配置される計2千の戦勝記念看板のうちスターリンの看板は10枚だけにすると強調した。
 
 これに対し、人権団体「メモリアル」は3日、「スターリン主義の復活をもくろむ動きだ」として市に計画撤回を要求。「スターリン肖像の出現は戦争や弾圧の犠牲者への侮辱だ。ソ連兵は指導者ではなく祖国を守るために戦った」との声明を出し、スターリン体制下の犯罪を説明する看板で対抗すると訴えた。
 
 スターリンの看板の配置は、元ソ連兵や対独戦経験者ら「ベテラン」の団体が市に要求していた。団体代表で元ソ連共産党幹部のドルギフ氏は「スターリンの過小評価は歴史の歪曲だ」と主張する。
 
 市が最初に構想を明らかにした2月、一部メディアは街中がスターリンの肖像で埋まるかのように伝え、一時騒ぎになった。この時、下院のグリズロフ議長は「勝利者スターリンではなく人民だ」と述べ、反対の意向を表明。メドベージェフ大統領は昨年10月の政治弾圧犠牲者の日に「国民を抹殺した者の正当化はありえない」とスターリン復権の動きを牽制している。