物議を醸す行為

ローマ法王、政治は苦手? 「尊者」認定でユダヤ人反発 (www.asahi.com 2010年1月6日4時2分)
 
 今年就任5年を迎えるローマ法王ベネディクト16世が、ユダヤ人社会からの批判に直面している。昨年、中東のキリスト教聖地を歴訪した際は「他宗教との対話」を進めた法王だが、政治感覚が薄く、逆に摩擦を引き起こしている。カトリック信者の頂点として、今年は法王にとって真価が問われる年になる。
 
 ローマ法王庁バチカン)は昨年12月19日、前法王ヨハネ・パウロ2世と第2次大戦中の法王ピオ12世を「尊者」とすることを決めた。今後「福者」を経て、カトリック最高の崇敬対象である「聖人」に列する手続きを開始したことを意味している。
 ピオ12世(在位1939〜58年)は、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)を明確に批判せず黙認したとされていることから、各国のユダヤ系団体が一斉に反発。独ユダヤ人協会は「(尊者決定は)現段階では早すぎる」との声明を発表。「ベネディクト16世に失望した」(米ユダヤ委員会)、「バチカンと仏のユダヤ人社会の関係に打撃を与えた」(仏ユダヤ人団体)といった批判が相次いだ。
 バチカン側は事態の沈静化に懸命だ。ベネディクト16世はバチカン職員らとの謁見でエルサレム訪問に触れて、ホロコーストを改めて「正当化できない行為」と強調。さらに「ピオ12世とヨハネ・パウロ2世の手続きは同時には進めない」(ロンバルディ報道官)とした。
 
 ベネディクト16世は教義に厳格なため、バチカン内部の支持は厚い。しかし、イスラエルパレスチナ、ヨルダンの聖地巡礼を前にホロコーストを否定した司教の破門を解除するなど、「政治音痴」からくる言動で就任以来物議を醸してきた。
 バチカンは昨年12月、ロシアと外交関係を結び、11世紀の教会分裂でできた東方正教会の最大勢力、ロシア正教会との和解に向けて前進。中国やベトナムなどの共産主義国との外交関係樹立にも意欲を見せる。重要な「外交課題」が控えるだけに、法王に政治的なセンスを求める声は多い。