Für Elise


 
 小学生の頃、給食の時間に学校放送でいつも流れていたのが、ビゼーの『アルルの女』第2組曲メヌエットで、この有名な旋律を耳にすると、無条件で昭和40年代の小麦粉を粘土のように固めて焼いたようなコッペパンと、銀紙に包まれた小さなキューブ状のマーガリン、あるいはアルマイトの食器に注がれた薄味の野菜スープや何かを思い出してしまう。
 
 そう言う意味では、ベートーベンの『エリーゼのために』(1810年作曲)も、小学校の給食の時間以外のいったい何を思い浮かべればよいのか、途方に暮れてしまいそうな名曲だが、ベルリン在住の音楽研究者クラウス・マルティン・コピッツによると、この曲は通説にあるハンガリーの伯爵令嬢テレーゼではなく、ベートーベン作曲のオペラにも出演したテノール歌手ヨーゼフ・アウグスト・レッケルの妹、エリザベート(1793〜1883)に贈られた可能性が高いという(7月27日付 朝日新聞夕刊)。
 
 本曲はイーヴォ・ポゴレリチによる「エリーゼのために」。ヴィデオ録画の状態は悪いが、天才の演奏である。