「対テロ戦」 カギ握るイスラーム主義国家の動静

シャリフ氏 復権の布石  与党分断へ首相に接近 (2009年3月24日 朝日新聞 国際面)
 
 野党側による前最高裁長官の復職要求を政府が受け入れ、当面の政治危機が回避されたパキスタンで、野党指導者のシャリフ元首相の存在感が増している。政権内でザルダリ大統領と距離を置くギラニ首相に接近し、大統領権限の縮小問題などで揺さぶりをかけ始めた。与党内にくさびを打ち込み、自らの政権復帰に道筋をつけたい考えだ。
 
 与野党対立の主要因だったチョードリ最高裁長官の復職が実現した22日、シャリフ氏は東部のラホール近郊でギラニ首相と会談した。焦点の一つは、ムシャラフ前大統領が大幅に強化した大統領権限の縮小問題だった。
 ムシャラフ氏退陣後の昨年9月に大統領に就任したザルダリ氏は当初、大統領権限の縮小を約束したが、半年たっても実行に移そうとしない。ギラニ首相は、これに不満を抱いているとされる。
 野党として大統領権限の縮小を要求してきたシャリフ氏はこれに目を付け、最高裁長官の復職を政府が受け入れた16日以降、「首相が政治の実権を握るべきだ」などと首相に「共闘」を求めるラブコールを送ってきた。首相を取り込むことで、ザルダリ氏に揺さぶりをかける狙いだ。
 22日の会談もシャリフ氏が首相に呼びかけた。首相はこの問題をめぐるシャリフ氏とザルダリ氏の会談を提案し、問題解決に向けて協力する姿勢をみせたという。
 この問題をめぐり与党・人民党内に亀裂が生じれば、シャリフ氏が政権に返り咲く足がかりになる。
 
 シャリフ氏の武器は、90年代に2度首相を務め、98年には国際的な批判を浴びながらもインドに対抗し、核実験を成功させたことで得た国民的人気だ。99年に軍トップだったムシャラフ氏を解任してクーデターを招き、失脚したものの、一昨年に亡命先のサウジアラビアから帰国した。
 シャリフ氏が率いるイスラム教徒連盟シャリフ派は、昨年8月に人民党主導の連立政権から離脱した後も人気は高い。米シンクタンクが昨年10月に実施した世論調査では、主要政治家の中でシャリフ氏は31%の支持を集め、8%で2位のザルダリ氏や他の政治家に大差をつけた。
 
 隣国アフガニスタンや国境地帯での「対テロ戦」でパキスタンに巨額の援助を続ける米国も、シャリフ氏への見方を変えつつあるとされる。
 イスラム保守派に近く、核武装を強行したシャリフ氏をかつては警戒してきたが、16日付のニューヨーク・タイムズ(電子版)は、シャリフ氏を危険人物と見るブッシュ前政権の評価を大げさだったという認識をオバマ政権が持ち始めた、と伝えた。
 シャリフ氏のイスラム政党やサウジへの人脈が、米政権の重要課題であるアフガン問題の解決にむしろ役立つのではと考え始めたという。
 シャリフ氏も最近、アフガン・パキスタン問題担当のホルブルック特別代表やパターソン駐パキスタン大使ら米要人と会談を重ね、関係改善を探っているとされる。
 
 だが、政権奪取への道筋は簡単ではないという指摘もある。ザルダリ氏が権限維持に固執するとみられるうえ、権限縮小には3分の2以上の賛成が必要で、人民党内の大統領派が動かなければ暗礁に乗り上げる可能性が高いためだ。