「世界」を読むツール
田原総一朗×佐藤優 『第三次世界大戦 新・帝国主義でこうなる!』『同 世界恐慌でこうなる』を読む。TVのニュース・ワイドショーを見るのは大変だけど、テキストだと通勤の行き帰りなど好きな時間に読めるので重宝する。ただ、松岡正剛の本もそうだったけど、内容に深く関わるところで誤植が散見されるのが辟易する(民主党、共和党の取り違えや、マルクスの引用文の不正確さなど)。これは著者の責というよりは、明らかに担当編集者のミスだろう。
佐藤優については、「社会科学(特に経済学)に関する基本的なトレーニングができていない」と難ずる批評家もいるようだが、一般の読者はテキストを大学専門課程の教科書として読んでいるわけではないし、それを言うなら圧倒的大多数のジャーナリズムがそれに該当してしまう。かつて、某新聞社系の週刊誌で、政治記者・岩見某の「『悟性』という言葉、ご存じでしたか」というコラムを読み、とても驚いたことがあった。何も某氏の「教養のなさ」をあげつらいたいわけではない。そうではなくて、いやしくも自社の看板記者が笑いものにされかねないような記事を平然と載せてしまう、某新聞社の構造的な無神経ぶりに慄然とさせられたのである。
カント、マルクス、ドストエフスキー、カール・バルト、カール・シュミット、ジョン・ロールズ、ユルゲン・ハーバーマス、柄谷行人、宇野弘蔵――これらは佐藤優のテクストにしばしば登場する名前だが、80年代前半に大学時代を過ごした佐藤と同世代の人々にとっては、親近感を抱きやすいある種の懐かしさがあることは間違いないだろう。
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(新・帝国主義でこうなる!)
1 第三次世界大戦「非対称の戦争」が始まった!
2007年10月 ブッシュ大統領が「第三次世界大戦」と発言(イランのリーダーたちはイスラエルをたたきつぶすと言っている)
アメリカが恐れるイスラムのドクトリン──十二イマーム派から出てきた原理主義は、世界救済のために戦争を引き起こす発想がある
近代的なテロを政治的な戦略として使い始めたのはイスラエル。それがブーメランのように戻ってきて、対イスラエル攻撃に使われている。テロリズムとは、テロを行うことで世論の大きな流れを作り、テロリスト側に有利な状況を作るという、極めて政治的な運動
カール・シュミット「政治とは規範の拘束を受けない敵味方の関係である」(友敵理論)
代議制民主主義は理念において独裁と矛盾しない
ジョン・ロールズ「正義は客観的に測ることができる。平等にして所得を妥当かつ適切に分配するのが社会正義」
友愛を国家に拡大するとファシズムになる
(ニューヨーク市立大学のトロツキスト・サークルだったネオコン)トロツキーの永久連続革命を、永久連続「共産革命」ではなく、永久連続「自由民主主義革命」に転換したのがネオコンの本質
2 帝国主義化する世界
世の中のかなりの問題は民主主義に馴染まない
ユルゲン・ハーバーマス「新たなる不透明性」
自然に還れ ヒトラーと環境ファシズムの親和性
徴兵制を肯定するのは、フランス革命の人民軍の思想
「軍事知識を職業軍人たちに独占させてはならず、全人民が軍事知識を持つ必要がある」
3 資本主義化する2大国の行方
「大審問官」を目指すプーチン
(グルジア問題は)グルジアのサアカシュヴィリ政権がまず南オセチア自治州に進撃し、それに対してロシアが反撃した
アメリカとイスラエル 「自由と繁栄の弧」(麻生太郎、「価値の外交」)
ロシア封じ込めの一つの拠点としてのグルジア
メドヴェージェフ「コーカサスにおけるわれわれの同胞の死に対して、わが国が懲罰を与えられない状態を看過しない」
いち早く調停に乗り出したサルコジ ロシアから利権?
中国:「愛国主義教育」から「科学的発展観」へ
中台の仮想敵は日本?
4 天皇と憲法、これでいいのか
「統治権の総覧者」たる天皇: 無私であるところの天皇陛下に照らして何か恥ずかしいところがないか
神道の伝統 「男」というシンボルを重視
国家は「異常なもの」によって成り立っている
戦争に負けたのは、拝む神様を間違えたから──皇祖皇宗に対する戦争責任
日本の君主制が「万邦無比の我が国体」というように独特な天皇中心主義に変わっていったのは、「天皇制」という言葉が入ってきたから(天皇制:1932年コミンテルンの日本に関するテーゼから)
日本が核兵器を持つと、NPT(核不拡散条約)から離脱しなければならない。その結果、ウランが入手できなくなる。10年後、日本の電力の4割近くが止まる。日本が原発の依存度が高いから、核兵器を持つことができない。
5 これが日本の生きる道!
蓑田胸喜「中今の思想」と「念力主義」(無為無策)
カントの「世界共和国」か、ホッブスの「リヴァイアサン」か
陸軍中野学校は昭和18年から、アメリカが日本を占領することを前提に研究・教育を始める
有末精三(インテリジェンスの責任者)
地方分権を徹底すれば公共圏は生まれてくる
(世界恐慌でこうなる!)
6 金融大崩壊がもたらすもの
CDS(Credit default swap)の損失: 6000兆円 (世界全体のGDP:年5000兆円)
レバレッジが横行する「ギャンブル資本主義」
オバマは大恐慌時代のルーズベルトになるか?
資本主義で必ず恐慌が起こるのは、好況のとき労働者の賃金が上がるから
アフマデネジャド・イラン大統領は、今回の金融危機でアメリカに対し勝利宣言(ソドムとゴモラ)
08年10月 北朝鮮へのテロ支援国家指定を解除
cf. 1938年9月のミュンヘン会談 英仏の宥和政策 → チェコスロバキアのズデーデン地方を独に割譲
「針の先で天使は何人踊れるか」
7 新自由主義を超えて
ハーバーマス: 新自由主義・新保守主義の時代を予見(「新たなる不透明性」)
イエス時代の税金は月収の25分の1
→ 近代以降の政府はどの国でも「大きな政府」
ヨーロッパ型の新保守主義「自然に還れ」
ノーブレス・オブリージュ(高貴なる義務)
石田梅岩「実の商人は、先も立、我も立つことを思うなり」
8 今、なぜマルクスなのか
「労働力の売買」こそが資本主義の「絶対的基礎」
労働力の商品化から人間が支配されていく
9 日本を襲う貧困の広がり
国税庁「民間給与実態統計調査」(07年):年収200万円以下 1022万人(4.2%増)
絶対的貧困
内需拡大、地方分権、格差是正
社会におけるエリートがどんな価値観を持つかによって、社会の顔が決まる(モラルの問題)
ルドルフ・オットー「聖なるものをぶち壊す近代的なもの、啓蒙の根源にある理性自身が、もしかしたら一種の宗教かもしれない」
ベルジャーエフ「人間は本質的に宗教的な存在で、どうしても何かを信じてしまう」
10 日本にこそチェンジが必要だ
ポール・クルーグマン 08年11月のG20金融サミット: 「今後10〜15年で米、欧、中国、インドという4つの巨大経済勢力が並ぶ多様化の時代が来る」
→ GDP世界1割、単独世界2位の日本が外れる
モンテスキュー「中間団体こそが民主主義の基本」
権藤成卿(農本主義者。血盟団事件、5・15事件の思想的背景)「大化の改新こそが中国の文化が日本に入って来ることになる諸悪の根源」 大化の改新以前に本来の日本(社稷)があった