「まなざし」の不在の地獄

 社会学者の見田宗介は、2008年で最も衝撃的だった東京・秋葉原の「無差別殺傷事件」を、68年の永山則夫・連続射殺事件と比較して、「戦後日本社会の空気が、すっかり入れ替わり、ある限界に達していることを示している」と批評した(2008/12/31付朝日新聞 『リアリティーに飢える人々』)。
 
 一つは「未来の消滅」であり、一つは「まなざし」の不在の地獄だ。戦後の近代化を経て、空気の「薄くなりすぎた」時代=「バーチャルな世界」に生き、「リア充」を憎悪しながら、「古典的な現実の飢えが、この国に充満し始めたことが明らかになり、『バーチャルな時代』が臨界点に達したということを、Kの事件は象徴している」と見田は言う。
 
 社会学の領域では、こうした「ゼロ年代の想像力」的分析が囂しいが、その一方で、現代においても犯罪の多くは貧困を背景としており、とりわけゼロ年代以降は、グローバリゼーション=金融資本主義の席巻がその最大の要因に考えられる。そして、08年はまさに9・15の「リーマン・ショック」に象徴されるように、その金融資本主義の限界と矛盾が爆発した年として記憶されるだろう、とする論調が大勢を占めつつある。
 
 昨年夏頃から年末にかけては、派遣社員の大量解雇など空前の雇用危機が浮上する一方で、トヨタなど大企業における巨額の内部留保や配当ぶりも露呈。共産党・志位委員長による大量解雇の中止・撤回と雇用維持の要請も話題となった。
 
★『まなざしの地獄』 見田宗介 河出書房新社 (2008/11/7)
 

特集/「不確実性」の経済学入門 (週刊東洋経済 2008/09/06) 
ナシーム・ニコラス・タレブブラック・スワン』(Nassim Nicholas Taleb, The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable)