2島返還では折り合えない

「歯舞・色丹は返還義務」 旧ソ連政権の内部文書を入手 (www.asahi.com 2013年04月24日04時57分)
 
 旧ソ連ゴルバチョフ大統領(当時)が1991年4月の日本訪問を前に、政権内部で北方領土四島の法的地位についてひそかに検討させていたことが分かった。朝日新聞が入手した文書によると、(1)56年の日ソ共同宣言でソ連は日本に歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)両島を引き渡す義務を負った(2)紛争は国際司法裁判所(ICJ)の審査対象になりうる――といった内容になっている。
 
 ロシア政府の「第2次世界大戦の結果、四島の領有権はロシアに移った」との主張とは矛盾している。
 
 ゴルバチョフ氏は領土問題打開の糸口を探る狙いから、科学アカデミー「国家と法研究所」を中心とする作業グループに、日ソ両国の主張の客観的な分析を指示。国際法や日本研究の専門家約10人が参加した。
 
 文書では、51年のサンフランシスコ講和条約について、国後、択捉両島での「ロシアの法的論拠はより有力」としつつ、「領有の法的根拠の手続きは完了していない」とも指摘。歯舞、色丹両島については、「北海道の一部と見なされる。日ソ共同宣言で、ソ連は平和条約締結後に日本に引き渡す義務を負った」と明快な立場を取っている。
 
 そのうえで、「紛争がかなりの部分で法的性格を帯びることを考慮すれば、原則的にICJによる審査の対象になりうる」と結論づけている。
 
 当時、ゴルバチョフ氏の国際法担当顧問で、検討の指導的役割を担ったレイン・ミュルレルソン元エストニア第1外務次官(69)によると、四島の問題がICJに付託されたケースも想定して分析された。「色丹、歯舞は日本に属するべきだ。択捉、国後でソ連の立場は十分強いものの、絶対的ではなく、ソ連のものという結論には至らなかった」と明かす。
 
 文書はゴルバチョフ氏に提出されたほか、5部程度しか作成されず、ソ連崩壊による混乱でその存在が表面化することはなかった。ミュルレルソン氏が3年ほど前、国家と法研究所の元所員が保管してきたものを見つけた。ミュルレルソン氏は「現在のロシア指導部も文書の内容を把握しているはずだ」と語る。
 
■新思考外交を反映
 
 ゴルバチョフ政権が北方領土四島の法的地位を検討したのは、ペレストロイカ(改革)と国際協調に基づく新思考外交が推進された、当時の時代が色濃く反映している。
 
 ソ連とロシアは、フルシチョフ第1書記が1956年の日ソ共同宣言で歯舞、色丹の二島引き渡しを約束してから、現在のプーチン大統領まで、日本との関係改善をはかるたびこの二島引き渡しをちらつかせてきた。
 
 検討文書が示すように歯舞、色丹に対する日本の領有根拠が極めて強いことが、その背景にある。
 
 昨年3月にプーチン氏は朝日新聞などとの会見で、四島の総面積の7%にすぎない歯舞、色丹の二島引き渡しでは折り合えない日本の世論の実情を踏まえたうえで「引き分け」による解決を目指す考えを示した。
 
 これまで日本政府は、将来につながる対応ができなかった。今後の交渉では、「法的手続きに決着がついていない」と文書がいう国後、択捉の帰属問題にどこまで踏み込めるかが最大の課題になる。