世界文学とは何か

日米の研究者や作家らが論議 シンポ「世界文学とは何か?」 (www.asahi.com 2011年11月17日10時10分)
 
 日米の研究者や作家らが古今東西の文学を縦横に語り合うシンポジウム「世界文学とは何か?」が12日、東京大学で開かれた。
 
 古典から現代まで世界各国の文学を論じた『世界文学とは何か?』(国書刊行会)の著者でハーバード大教授のデイビッド・ダムロッシュは、「比較できないものを比較する」と題して講演した。例えば、三島由紀夫は「豊饒の海」4部作で、主人公に「源氏物語」的な平安趣味の郷愁を与えながら、プルーストのように近代から現代へと回りまわって(輪廻転生して)いく物語を書き、最後に紫式部も超えてヒロインを脱俗させたと指摘。「三島はアジアと欧州の伝統を、複雑なプロセスで相互に活性化させた」という。このように、同じ土俵で語られることのない作家らを比較することが「世界文学研究の新しい一面」だという。
 
 作家の池澤夏樹は「新しい〈世界文学〉に向けて」と題して講演。自ら個人で編集し、今年完結した「世界文学全集」(河出書房新社)について、野菜を組み合わせて人の顔のように見えるアルチンボルドの絵になぞらえ、「(全30巻を)並べることで現代の世界の肖像画となるようなことをした」と振り返った。
 
 東大教授の柴田元幸アメリカ文学)、沼野充義ロシア文学)、野谷文昭ラテンアメリカ文学)らもさまざまな角度から考察した。柴田は、キーワードを二つ立てた。ある作家がほかの作家から影響を受ける「影響関係」と、同時代に似たような作品が生まれる「同時多発性」だ。フォークナーからマルケス中上健次へと続く影響のつながりと、村上春樹とタブッキとオースターが同時期に似た設定の小説を書いたこととの違いを紹介。「同時多発性の枠で考える必然性が増している」と述べた。
 
 池澤は「同時多発性は元をたどれば同じ何かを参照しているかも。世界中に参照すべきモデルがある」と発言。ダムロッシュは樋口一葉とジェームズ・ジョイスの共通点をあげ「共にイプセンに影響を受けている」と続けた。
 
 沼野は「3・11のような大惨事を経て、新たな光を獲得する作品もあるのではないか。例えば(石牟礼道子の)『苦海浄土』のように」と語った。「世界文学全集」に『苦海浄土』を編んだ池澤は、水俣病を核にして中央対辺境の対比が様々な形で現れることを指摘。「今読むべきは福島の人。同じ構造のことが起こっているから」と述べた。