逆パノプティコン

ネットメディアは世界を変えるか 「逆パノプティコン社会の到来」 (www.asahi.com 抄録 2011年5月23日)
 
 米外交公電の大量公開で注目を浴びた「ウィキリークス」。アラブ諸国に広がったジャスミン革命で民衆を結んだ「ツイッター」「フェイスブック」など、ユーザー自ら発信者となるソーシャルメディア。インターネットを舞台とした市民による情報共有の動きが今、世界を揺るがしている。慶大大学院政策・メディア研究科のジョン・キム准教授の「逆パノプティコン社会の到来」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、現在進行中の国家と民衆の力関係の変化を魅力的なイメージと共に読み解いたタイムリーな著作だ。
 
●監視者が監視される時代
 
 「パノプティコン」(一望監視施設)とは、18世紀にイギリスの思想家ジェレミーベンサムが発案した監獄のモデル。20世紀フランスの思想家ミシェル・フーコーが名著「監獄の誕生」で権力が民衆を支配する仕組みの象徴として紹介した=図。円環状の建物の中央に塔を配置し、円形に並んだ独房に閉じ込められた囚人らを監視する構造だ。監視者の姿は見えないように設計され、囚人らはたとえ塔が実際には無人であっても常に監視されている可能性を感じつつ生活することになる。見えない監視が内面から被監視者自身を縛る構図を、フーコーは近代社会の工場・学校など規格化された社会装置全体になぞらえて論じた。
 
 「逆パノプティコン社会の到来」でキムさんは、ネットを舞台に現在起きている事態をパノプティコンの正反対、つまり民衆が権力を不断に監視する構図としてとらえ、各ネットメディアが政治権力にあらがいながら情報を公開・共有して支持を集めた様子を順を追って解説した。「(パノプティコンの)塔にいるのは政府ではなく市民」とキムさんは書いたが、あるいは監視者のいる中央の塔がガラス張りになってしまった状況、と見立てることも可能かもしれない。「誰に『見られて』いるかは政府自身もわからないのです」