真実性を再考し続ける負担

沖縄ノート」訴訟 集団自決の軍関与を認めた判決確定 (www.asahi.com 2011年4月22日14時21分)
 
 太平洋戦争末期の沖縄戦で、旧日本軍が集団自決を命じたと記述したノーベル賞作家・大江健三郎さんの著作「沖縄ノート」(1970年)をめぐる名誉毀損訴訟で、最高裁第一小法廷(白木勇裁判長)は、原告の元戦隊長側の上告を退ける決定をした。
 21日付で、「原告の事実誤認などの主張は、上告が許される場合にあたらない」という内容。集団自決への「軍の関与」を認めたうえ、大江さんが軍の命令があったと信じたことに根拠があったとした二審・大阪高裁の判決が確定した。
 
 2005年に訴訟を起こしたのは、大阪府に住む元座間味島戦隊長で元少佐の梅沢裕さんと、元渡嘉敷島戦隊長で元大尉の故・赤松嘉次さんの弟秀一さん。大江さんと、出版元である岩波書店を相手取り、出版差し止めと、慰謝料の支払いを求めていた。
 
 08年3月の一審・大阪地裁判決は、生存者の証言などから集団自決への「軍の関与」を認定。同年10月の二審・大阪高裁判決も軍の関与を認めたうえ、「出版時は元戦隊長が命令したとする説が学会の通説といえる状況だった」として、名誉毀損の成立を否定した。
 さらに、この二審判決は「公益目的で長年出版されている書籍で、著者に将来にわたって真実性を再考し続ける負担を課すと、結局は言論を萎縮させる懸念がある」と、表現の自由を重視した判断を示していた。
 
 元戦隊長らは、歴史学者家永三郎さん(故人)の著作「太平洋戦争」(68年、岩波書店)の記述でも名誉を傷つけられたと主張していたが、両判決とも認めなかった。
 
 この訴訟は、06年度の教科書検定で、集団自決について高校の日本史教科書から「軍の強制」を示す表現が削除されるきっかけともなり、議論を呼んだ。