今後30年にわたる戦い

廃炉に長い歳月 福島第一原発、予測は困難 (www.asahi.com 2011年4月1日12時10分)
 
 廃炉が決定的となった東京電力福島第一原子力発電所の1〜4号機。今後の最大の課題は原子炉を冷やして、安定して止まった状態にすることだ。さらにその難関を乗り越えても、高レベルの放射性廃棄物が出る廃炉作業をどうするかという課題が待ち受ける。
 
■冷却になお数カ月か
 
 福島第一原発にいま必要なのは、原子炉内の温度を100度未満にする「冷温停止」状態にすることだ。とにかく水を入れて冷やさなければならない。この状態にできるかが最大の関門だが、なお数カ月はかかるとみる専門家もいる。
 
 今回の地震津波で、同原発の冷却システムは作動できなくなった。消防車や仮設の電動ポンプを使って炉に注水して冷やす今の作業はあくまで緊急避難だ。
 原子炉に水を入れると燃料の崩壊熱で水が蒸発する。冷却システムはこの蒸気を冷やして水に戻して循環させ、圧力が高まらないようにする仕組みだ。炉で熱くなった水は、熱交換器を通じて海水で冷やす。
 
 しかし今回のように水を入れるだけだと蒸気で内圧が上がり、原子炉圧力容器や格納容器の圧力が高まり、壊れるおそれもある。
 そのため事故後、炉内の圧力が上がるたびに、壊れるのを防ぐため、放射性物質を含む蒸気を外部に放出するベント(排気)の実施を迫られた。注水で原子炉からあふれた汚染水が外部に漏れ出し、海を汚染しているという見方も強まっている。
 
 周辺の汚染防止は、冷却システムの復旧がかぎだ。
 
 各号機では通電作業が終わり、中央制御室の照明が点灯した。計測機器類を復旧させて、壊れた場所を特定しなければならない。冷却システムのポンプや機器も大幅に壊れている可能性が高く、修理や交換も必要になる。特に放射能で汚染された場所では作業員の被曝を避けるため、長くはいられない。手間と時間がかかる見込みだ。
 
 最終的に冷却システムを復旧させることができなければ、外部からの注水作業を続けざるを得ない。その間、汚染水は外部に出続け、海に放射性物質を出し続けることになる。並行して、タービン建屋などにあふれてたまった汚染水の処理も必要だ。貯水プールなどを設ける案も浮上しているが汚染水の処理に追われ続けることになる。
 
■壊れた燃料の扱いは…搬出か「石棺」も選択肢
 
 冷温停止できたとしても、今度は廃炉に向けた長く厳しい道のりが始まる。焦点は、今回の事故で、ぼろぼろに壊れたと見られる核燃料の扱いだ。
 
 まずは、燃料が持つ熱を冷まさなければならない。とりあえず冷却を続けるにせよ、燃料を取り出して処分するか、それとも原子炉を丸ごとコンクリートで固めるか、いずれ選択を迫られることになる。
 
 原子炉の核燃料は溶融して原形をとどめていない可能性もある。原子炉周辺はプルトニウムやウランなどが放出されている可能性が高い。原子炉に近づいて燃料を取り出す作業をするには、放射能に汚染された場所をきれいにする必要がある。溶けて固まった燃料を取り出す技術も開発しなければならない。
 
 さらに取り出しても高レベルの放射能を出す燃料の処分はやっかいだ。地下深くに埋めるための処分施設は今のところどこにもない。通常の使用済み核燃料を再利用するために処理する施設は青森県六ケ所村にある。しかし、事業主体の日本原燃は「(想定以上の高い放射能を出す)大きく壊れた燃料は受けいれたことがない」と困惑する。
 
 それでは事故を起こした旧ソ連チェルノブイリ原発4号炉のように、丸ごとコンクリートで覆った石棺のように封じ込めるのか。
 
 宮崎慶次・大阪大名誉教授(原子炉工学)は、残った燃料が発熱してコンクリートに亀裂ができて新たな放射性物質の放出につながる危険もあると指摘する。「燃料を取り出した米国のスリーマイル島原発事故での対応を参考に、海外の協力を得てロボットなども使い、どんなに多くの時間とコストと労力をかけても取り出すべきだ。ただ、今回は4基も損傷しており、取り出すだけでかなり長い年数がかかるだろう」
 また、近畿大原子力研究所の伊藤哲夫所長(原子力安全工学)は「石棺などで封じ込める方法が、放射性物質の拡散を防ぐ上でも一番良いと思う。だが燃料をそのままにして封じ込めるか、別の場所に移すかは、燃料の破損状況に応じて検討すべきだ」という。
 
 そもそも原発廃炉は通常でも長期戦だ。燃料を取り出し原子炉に通じる配管をふさぐ。原子炉の放射能レベルが下がるまで5〜10年間、密閉状態にする。その後、原子炉を解体、撤去して最後に建屋を解体する。高い放射能が一挙に外に漏れないようにするため建物は放射能汚染のレベルが高い方から低い方へ解体するのが基本だ。
 だが福島第一原発では、廃炉の場合に一番最後に解体される原子炉建屋が水素爆発などで大きく壊れた。タービン建屋地下に放射性物質を含む水がたまるなど、建屋の内外が高濃度の放射性物質で広範囲に汚染されている。汚染を遮るための構造物など、作業員が被曝を軽くできる環境を確保することが重要だ。
 
 宇根崎博信・京都大原子炉実験所教授(原子力工学)は「国内の原子炉解体例から考えても、すべて終えて更地にするまでに最低20〜30年はかかるだろう」と見ている。