見えない国境線

村襲う砲弾、家屋や校庭を直撃 タイ・カンボジア衝突 (www.asahi.com 2011年2月8日18時24分)
 
 タイとカンボジアの国境未画定地域をめぐる両軍の衝突で被害を受けたタイの村に8日入った。2008年から断続的に続いてきた戦闘の中でも今回は最大規模。衝突は4日に始まり、両軍がこれまで確認している死亡者8人には、近くに住む双方の村民も含まれている。
 
 衝突が起きているのはカンボジア北部の世界遺産プレアビヒア寺院に接する国境未画定地域。そこから約10キロのプンサロン村では4日に砲弾で1人が亡くなり、ほとんどの人が避難した。道路や田畑のあちこちに大きな穴がある。砲弾の跡だ。直撃を受け、完全に破壊された家もある。村民たちはとるものもとりあえず逃げたのだろう。洗濯物がそのままになっていた。
 
 屋根に大きな穴があいていたプンサロン中学に、職員のカンパイ・ポーターセーンさん(43)が残っていた。戦闘が始まった4日に直撃弾があった。当時、校庭にはスポーツ行事のために周辺の学校の生徒もあわせて約1千人がいたという。「爆発音と子どもたちの悲鳴で、大混乱になった。これまで軍が戦うことがあっても、村に被害が出ることはなかったのに」
 
 5日に休戦が決まったものの6日に再開。タイ側だけで1万6千人にのぼるという避難民には疲れが見える。
 
 プンサロン村の北20キロにあるカンタララック地区役場では、約300人が集会所にござを敷いたり敷地にテントを建てたりしている。食料は政府の支給や寄付でまかなうが、トイレやシャワーにも事欠く。
 
 家族9人で避難してきたサワット・ワンヤさん(67)は「頭の上をものすごい音をたてて砲弾が飛んでいた。恐ろしくて戻れない」と話す。村民の多くは農家で、ふだんは国境未画定地域に山菜や木の実を採りに行くこともある。カンボジア兵を見かけたら、あいさつをする間柄だった。「早く平和が戻って欲しい。でも、これまでの衝突とは規模が違う」
 
 8日午前に戦闘は起きていないが、両軍はにらみ合いが続いている。