ゼロ年代の50冊

本の目利き 151人のベスト5 (朝日新聞朝刊 2010年4月4日掲載)
 
 ゼロ年代から次の新しい10年に入ったいま、この10年でどんな本が出ていたのか改めて記録しておきたいと、この間に出た本から50冊を識者アンケートで選びました。1位はジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎』(草思社、倉骨彰訳、上下各1995円)です。
 
 「ゼロ年代の50冊」はアンケートで選びました。新聞や週刊誌で書評を執筆している方に、2000〜09年の10年間に出た本の中からベスト5を挙げていただきました。317人にお願いし、151人から回答が寄せられました。ベスト5を5点〜1点と点数化し、順不同はそれぞれ3点で集計しました。

 ジャンルを問わず挙げてもらったため、ノンフィクション、小説、評伝など作品の範囲は多岐にわたりました。タイトルが挙がっただけでも約620冊にのぼります。
 
 表で紹介した50冊のほかにも、たとえば小説で、安岡章太郎著『鏡川』(新潮社)や大江健三郎著『さようなら、私の本よ!』(講談社)などが挙げられました。評伝では複数の方が岡村春彦著『自由人 佐野碩の生涯』(岩波書店)を推しています。演劇評論家扇田昭彦さんは「軍国主義下の日本を逃れ、ソ連を経て亡命先のメキシコで演劇活動を続けた佐野の行動的な生涯を描く画期的評伝」と評します。
 三浦展著『下流社会』(光文社新書)、宇野常寛著『ゼロ年代の想像力』(早川書房)ほか「ゼロ年代の日本」の変容を描き出した本もあります。
 
 また、京都大学名誉教授の伊東光晴さんが「チッソ水俣工場のメカニズムを再現し、有機水銀がしたことを実証した歴史に残る書物」と評する西村肇・岡本達明著『水俣病の科学』(日本評論社)など、出版されたことを改めて記録しておきたい本の名前も多数寄せられました。
 
( 1) 銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイアモンド (倉骨彰訳 草思社 00年)
( 2) 海辺のカフカ 村上春樹 (新潮社 02年)
( 3) 告白 町田康 (中央公論新社 05年)
( 4) 磁力と重力の発見 山本義隆 (みすず書房 03年)
( 5) 遠い崖 萩原延壽 (朝日新聞出版 80、98〜01年)
( 6) 博士の愛した数式 小川洋子 (新潮社 03年)
( 7) 木村蒹葭堂のサロン 中村真一郎著 (新潮社 00年)
( 8) 東京骨灰紀行 小沢信男 (筑摩書房 09年)
( 9) 孤独なボウリング ロバート・D・パットナム (柴内康文訳 柏書房 06年)
(10) トランスクリティーク 柄谷行人 (批評空間 01年)
 
(11) 釋迢空ノート 富岡多惠子 (岩波書店 00年)
(12) シズコさん 佐野洋子 (新潮社 08年)
(13) カラマーゾフの兄弟 ドストエフスキー (亀山郁夫訳 光文社 06〜07年)
(14) PLUTO 浦沢直樹手塚治虫 (小学館 04〜09年)
(15) 本格小説 水村美苗 (新潮社 02年)
(16) 江戸演劇史 渡辺保 (講談社 09年)
(17) 敗北を抱きしめて ジョン・ダワー (三浦陽一、高杉忠明訳 岩波書店 01年)
(18) アースダイバー 中沢新一 (講談社 05年)
(19) とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起 伊藤比呂美 (講談社 07年)
(20) 円朝芝居噺 夫婦幽霊 辻原登 (講談社 07年)
 
(21) ナショナリズムの由来 大澤真幸 (講談社 07年)
(22) 1968 小熊英二 (新曜社 09年)
(23) 「格差」の戦後史 橋本健二 (河出書房新社 09年)
(24) 母の声、川の匂い 川田順造 (筑摩書房 06年)
(25) 輝く日の宮 丸谷才一 (講談社 03年)
(26) ブーバーとショーレム 上山安敏 (岩波書店 09年)
(27) 滝山コミューン一九七四 原武史 (講談社 07年)
(28) 悪人 吉田修一著 (朝日新聞出版 07年)
(29) 完訳 ファーブル昆虫記 ジャン=アンリ・ファーブル (奥本大三郎訳 集英社 05年〜)
(30) マオ 誰も知らなかった毛沢東 ユン・チアンほか (土屋京子訳 講談社 05年)
 
(31) 東西/南北考 赤坂憲雄 (岩波書店 00年)
(32) 道元禅師 立松和平 (東京書籍 07年)
(33) 寺山修司・遊戯の人 杉山正樹 (新潮社 00年)
(34) 真鶴 川上弘美 (文芸春秋 06年)
(35) 日本語が亡びるとき 水村美苗 (筑摩書房 08年)
(36) わたしの戦後出版史 松本昌次 (トランスビュー 08年)
(37) 白山の水 鏡花をめぐる 川村二郎 (講談社 00年)
(38) エクソフォニー 多和田葉子 (岩波書店 03年)
(39) わたしを離さないで カズオ・イシグロ (土屋政雄訳 早川書房 06年)
(40) 伊勢神宮 井上章一 (講談社 09年)
 
(41) アメリカのデモクラシー トクヴィル (松本礼二訳 岩波書店 05〜08年)
(42) シンセミア 阿部和重 (朝日新聞出版 03年)
(43) 建築家 安藤忠雄 安藤忠雄 (新潮社 08年)
(44) 国家の罠 佐藤優 (新潮社 05年)
(45) 日米交換船 鶴見俊輔加藤典洋黒川創 (新潮社 06年)
(46) 昭和精神史 桶谷秀昭 (文芸春秋 92、00年)
(47) 神は妄想である リチャード・ドーキンス 垂水雄二訳 (早川書房 07年)
(48) 廣松渉――近代の超克 小林敏明 (講談社 07年)
(49) 〈帝国〉 アントニオ・ネグリマイケル・ハート (水嶋一憲ほか訳 以文社 03年)
(50) 帝国以後 エマニュエル・トッド (石崎晴己訳 藤原書店 03年)