暴露されざる闇

横浜事件、無罪の判断 地裁、元被告に刑事補償認める (www.asahi.com 2010年2月4日12時23分)
 
 戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」の再審で、有罪か無罪かを判断せずに裁判を打ち切る「免訴」判決を受けた元被告5人について、横浜地裁は4日、刑事補償を認める決定をした。5人の補償総額は遺族が請求した通りの約4700万円。大島隆明裁判長は「治安維持法の廃止など免訴にあたる理由がなければ、無罪判決を受けたことは明らか」と述べ、実質的な「無罪」と判断した。
 
 再審で無罪判決が言い渡された場合と同様に、今回の補償決定は官報や新聞に公示される。1986年に初めて再審請求して以来、初めて司法により元被告の名誉回復が図られる。最高裁によると、免訴判決後に刑事補償が認められたこれまでのケースは「把握していない」という。検察側は抗告しないとみられ、決定は確定する見通し。
 認められたのは、いずれも故人で、元中央公論社出版部の木村亨さん▽元改造社編集部の小林英三郎さん▽旧満鉄調査部員の平舘利雄さん▽元古河電工社員の由田浩さん▽元改造社編集部の小野康人さん。5人は治安維持法違反で45年に有罪判決を受けた。
 刑事補償法は、法の廃止や大赦などの免訴となる理由がなければ無罪判決を受けたと認められる場合には、補償金を支払うと定めている。
 
 決定は、神奈川県警特別高等課(特高)の当時の捜査について「極めて弱い証拠に基づき、暴行や脅迫を用いて捜査を進めたことは、重大な過失」と認定。検察官も「拷問を見過ごして起訴した」、裁判官も「拙速、粗雑と言われてもやむを得ない事件処理をした」としたうえで、「思い込みの捜査から始まり、司法関係者による追認により完結した」と事件を総括した。
 事件の発端のひとつは、特高警察が42年の富山県泊町(現・朝日町)での会合を、「日本共産党の再建準備会」とみなしたことだった。決定はこの会合について「遊興の会合だった可能性が高く、再建のための会議という事実は認定できない」とした。
 昨年3月に横浜地裁であった4次の再審判決を担当したのは、今回の決定と同じ大島裁判長だった。その判決の中で、刑事補償の請求があれば実質的な無罪判断を出す可能性を示唆していた。(波戸健一、二階堂友紀)
 
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 横浜事件 1942〜45年、中央公論改造社朝日新聞などの言論・出版関係者の約60人が「共産主義を宣伝した」などとして神奈川県警特別高等課(特高)に治安維持法違反容疑で逮捕された事件の総称。約30人が有罪判決を受け、4人が獄死した。その後、取り調べに拷問があったとして、元警察官3人が特別公務員暴行傷害罪で有罪となった。元被告の無罪判決を求めた再審請求は86年から4次にわたって行われた。3次で初めて再審が認められたが、4次とともに「治安維持法の廃止」などを理由にいずれも有罪、無罪を示さない免訴判決が言い渡された。