荘厳と神秘

日本画家、シルクロード 平山郁夫さん死去 79歳 (www.asahi.com 2009年12月2日14時1分)
 
 日本画壇の第一人者で、シルクロードを描いた作品で知られ、文化財保存活動にも尽力した文化勲章受章者の平山郁夫さんが、2日午後0時38分、脳梗塞で死去した。79歳だった。
 
 広島県で生まれ、旧制中学3年で被爆した。東京美術学校(現・東京芸術大学)で、日本画家の前田青邨に師事。卒業後母校の助手となり、1953年に日本美術院展に出品して初入選。以後、同展を拠点に発表し、59年発表の「仏教伝来」や61年の「入涅槃幻想」などで評価され、仏教やシルクロードの歴史・風物、各地の文化遺産などを主題にした作風を確立する。
 また、法隆寺金堂や高松塚古墳の壁画の模写に従事。中国・敦煌の石窟寺院を守るために、展覧会を開催して得た2億円を寄付するなど、世界の文化遺産の保存・修復活動を展開した。カンボジアアンコールワットアフガニスタンバーミヤン仏教遺跡なども含む広い範囲を対象とし、「文化財赤十字」構想を唱えてライフワークとした。
 
 その一方、73年から東京芸大の教授を長らく務めて後進の指導にあたり、89年に同学長に。95年に一度退いたが、2001年に再び選ばれて05年まで学長を務めた。その間、98年の文化勲章や03年度の朝日賞など受章・受賞を重ねた。このほか、所属していた日本美術院の理事長に就いたのをはじめ、日中友好協会会長や日本育英会会長、日本ユネスコ国内委員会会長などの要職を歴任した。
 

 昨秋、薬師寺を訪れた際に、ちょうど玄奘三蔵院伽藍が公開されていて、平山郁夫の名作「大唐西域壁画」を鑑賞することができた。
 
 平山郁夫で思い出すのが、早稲田大学中央図書館の2階から4階にかけて、吹き抜け部分に飾られている大壁画「熊野路・古道」で、“神々の眠る”聖域の荘厳と神秘は、書物の森である「図書館」にふさわしい一作と言える(ぼく自身の現役時代、旧図書館に掲げられていたのは横山大観・下村観山合作の「明暗」で、同大の資料によれば「文化と野蛮、理知と蒙昧とを対称」したという、この世界最大の手漉き和紙に描かれた作品もまた、たまらない神秘を湛えた名品ではあったのだが)。