和解の哲学と「古い敵意」

フォード米元大統領、広島訪問を検討 74年の訪日時 (www.asahi.com 2009年9月15日3時1分)

 74年に当時のジェラルド・フォード米大統領(共和)が現職として史上初めて訪日した際、広島訪問をホワイトハウスが検討していたことが、フォード政権の内部文書で分かった。大統領補佐官の一人が、日米和解で傷を癒やし、軍縮を世界に呼びかける場にしようと提案。2週間にわたり「真剣な検討」があったが、最終的には日本国内で反発を招きかねないとして見送られていた。
 
 歴代の米大統領は在任中に被爆地の広島・長崎を訪問したことは一度もない。だが、米政府内部でも被爆地訪問の可能性を探る動きが存在したことが、初めて史料によって裏付けられた形だ。
 米国立公文書館分館を兼ねるフォード大統領図書館(ミシガン州)に保管されていた。アメリカン大学の調査報道ワークショップを拠点に、記者が70年代の日米関係を調べる過程で見つけた。
 広島訪問を提案したのは、ホワイトハウスと各種団体などの窓口役となる「渉外担当大統領補佐官」だったウィリアム・バルーディ氏。96年に死去した。
 
 大統領あての覚書は74年9月16日付。「大統領の和解の哲学をさらに広げる方策として、訪日する際は広島訪問を含めた方がいい」。第2次大戦で敵同士だった仏独の和解の努力に匹敵すると強調。国際的軍縮の意思表明の舞台としても広島を選ぶよう進言した。
 しかし、同月23日にホワイトハウス内部の検討文書草案を作成した国家安全保障会議(NSC)スタッフは「何人かは賛成だったが、大部分は否定的だった」と記した。
 「利点もあるが、深刻な欠点もある。我々が日本を打ち負かしたことを思い出させようとしていると受け止められるかもしれない。新しい関係構築に努めている時に古い敵意に再び火をつける可能性もある。日本国内の左翼につけ込まれる恐れもある」
 
 9月30日、スコウクロフト補佐官(国家安全保障担当次席)が「我々は広島訪問について真剣な検討を加えてきた」とした上で「訪問しないよう勧める」との覚書を出し、見送りが事実上決まった。
(略)