寺島実郎 『世界を知る力』

 「にっぽん音吉」やジョン万次郎、大黒屋光太夫ばかりではない。江戸時代に遭難して他国に流れ着いた漂流民の数は、実は数千人にも上るという。一方で、ピョートル大帝が「ヨーロッパへの窓」サンクトペテルブルク日本語学校を開設したのは1705年。実に、ペリーの黒船来航よりも150年も前から、ロマノフ王朝の極東への野心は高まりを見せ、ウラジオストック建設が展開されていったのだ。
 
 しかし、開国以前の日本が「野蛮の国」であったわけではない。一例として、著者は「全体知の巨人」空海の名を挙げる。鉄幹を追いかけて新橋から敦賀に抜け、ウラジオストックからシベリア鉄道でパリへ向かった与謝野晶子のエピソードも、「転倒した世界地図」の視点から眺め直してみると面白い。
 
 中華人民共和国に台湾、香港、それから華僑国家と呼ばれるシンガポールを含めた Greater China =「大中華圏」のダイナミズム。あるいは、ロンドン、ドバイ、バンガロールシンガポールシドニーを繋ぐ「ユニオンジャックの矢」。分散型ネットワークの「力」が、国家の枠組みを超えて地球全体を動かしつつある。それはすでにIT革命が実証したことであり、バラク・オバマの「グリーン・ニューディール政策」もその延長線上で捉えることができるという。
 
 日米関係は「米中関係」であること、メディア王ヘンリー・ルースによる「反日・親中国」操作など、戦後日本の「死角」を見落としてはならないと警鐘を鳴らす。「トゥシューズを履いた巨人」日本の“インテリジェンス”は、すでに周回遅れとなってしまった「先進性」を奪回することができるのだろうか。