再生医療への応用に挑む
iPS細胞、世界初の臨床応用へ 目の難病向け、国了承 (www.asahi.com 2013年06月26日21時05分)
iPS細胞(人工多能性幹細胞)が世界で初めて、人の病気の治療に使われることになった。26日、目の難病・加齢黄斑変性の臨床研究計画についての国の審査が実質的に終わり、来年にも移植手術が行われる。人での作製発表から6年で、iPS細胞は、再生医療への応用に向けて大きく動き出した。
計画は2月、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーらのチームが厚生労働省の審査委員会に申請した。
理研や移植手術を行う先端医療センター病院(同市)などの倫理委員会で承認されているが、国の審査委でも引き続き、iPS細胞が移植後に異常な振る舞いをしないか、安全性について集中的に議論された。
3回目のこの日、移植する細胞に、がん化につながる遺伝子の変異がないかや培養時にウイルスの混入がないかを詳しく調べることなどを条件に了承することを決めた。永井良三委員長(自治医科大学長)は「科学的に妥当ということ。いま我々が判断できる一つの結論だ」と話した。
7月半ばにある厚生科学審議会の科学技術部会に報告後、厚労相から正式な了承の意見書が通知される。
今回の研究の対象は、国内に患者が70万人いると推計される加齢黄斑変性の患者のうち、日本人に多い滲出型と呼ばれる型の患者。網膜の下にある「色素上皮」という組織に不要な血管などができ、網膜が押し上げられて視野が欠けたり、失明したりする。
今夏にも、薬による治療の効果がなかった50歳以上の患者6人を選定し、先端医療センター病院で腕の皮膚組織を採取。隣接する理研の施設でiPS細胞を作製し、色素上皮に変化させてシートにして移植する。
今回の研究の第一の目的は安全性の確認で、がん化や、免疫による拒絶反応がないかを調べる検査を手術後1年間は2カ月に1回以上、行う。その後も少なくとも年1回は検査する。理研は「視力の大幅な改善を期待するものではない」と説明している。
iPS細胞のように、さまざまな組織の細胞になれるES細胞(胚性幹細胞)を使った再生医療の臨床試験(治験)は、米国で2010年以降、脊髄損傷と加齢黄斑変性で行われている。いずれも、深刻な副作用は報告されていないが、現時点では明確な効果も示されていない。
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〈iPS細胞(人工多能性幹細胞)〉 皮膚や血液などの細胞に遺伝子を導入し、心臓や神経、肝臓などさまざまな細胞になれる能力を持たせた細胞。一定条件で培養すれば、無限に増やすことができる。この「多能性」は胚性幹細胞(ES細胞)と同じだが、受精卵を壊して作るES細胞と違って倫理的な問題を避けられ、自分の細胞から作れば免疫による拒絶反応も抑えられる。再生医療のほか、病気の仕組みの解明、創薬研究など幅広い応用が期待されている。
山中伸弥・京都大教授らが2006年にマウスで、07年にヒトの細胞で作製に成功し、山中氏は昨年、ノーベル医学生理学賞を共同受賞した。